三笑亭 五代目店主:酒井 亮 氏
今回のインタビューは、世界遺産である「平等院」から徒歩5分圏内、宇治橋商店街を横に入った路地にある「お台所 roji」へうかがった。お台所 rojiは、地元の食材を中心に、季節感のあるいろとりどりのこだわりの創作和食料理やお酒が楽しめる隠れ家的なお店だ。
インタビューを受けていただいたのは、そのお台所 rojiの店主である吉田一平氏。京都市内の人気店の料理長のもとで7年間和食を学び、その後に独立された。
-本日はよろしくお願いします。まずはじめに、この仕事をお店をやろうと思ったきっかけを教えていただいてもよろしいでしょうか
「もともと学生時代に焼肉屋や居酒屋でアルバイトをしている中で、料理やサービス業というものに興味をもったのがはじまりで。中でもお客さんに喜んでもらえるのが何より嬉しかったし、やっぱり自分のお店を持ちたいというのが夢になった。でも、やっぱり独学とかでは限界もあるしっていうところで、京都市にある某料理屋の料理長のもとで7年くらい学ばせてもらってる中で、独立の光が見えてきて、たまたまチャンスがあったので自分でやろうかなと。
お客さんに『本当に美味しかった、ありがとう』って言ってもらうだけのために。もちろんね、そりゃあ儲けないとあかんねんけど、まずはそこ。1日に十数時間も働くような飲食店って、基本的にみんなやりたくはないと思うけど、それでもやってる人は『美味しかった、ありがとう』とか『本当に素敵です』って言ってもらうために、ずっとゼロから作ったりするんだし。
やっぱりサービス業って人に喜んでもらうためのものであって、それのためにずっとやってきてるから『俺もやってみようかな?』と。細々と、細く長くやっていこうかな、というのではじめました。」
-そうだったのですね。
「そう。なのでお店を大きくするつもりは一切ありませんね。ちょっと面白いな、と思えるようなものをできるだけやっていきたいな、というのがあって。例えば、型抜き(※1)」
-インタビュー前に見せて頂きましたが、あれはいつ頃からされているんですか
「つい先週くらいですよ。たまたま子ども達にやらせてあげたら、みんなハマりにハマってたから、これもしかしたらオッチャンとかの年齢層の高い人でもいけるんじゃないかと。そしたら意外と1日に2個とか出てますから。」
-そうなんですね。いや、あれは気になると思いますよ。知らなかったので僕。
「まあ100円やし、別に値段的にそんな苦でもないのかなって。高校生とかが100円となったら『え?100円するの?』ってなると思うけど(笑)いい年齢の大人ならね『100円くらい』って。それにうまく型を抜けたら生ビールもサービスで飲めるんやし(笑)
まあそういうちょっとした面白みのあるような、興味を持ってもらえるようなサービス、商品を提案できているんじゃないかな。
だし巻きでも、『僕のだし巻き』って名前で出してて。昔『俺の○○』とか流行ったじゃないですか(笑)」
-俺のフレンチとか
「そうそう、そういうのが出てた時期くらいにこのお店をオープンしたから。2015年くらいに。そういうちょっとおもしろいメニューを作って遊んでたな。そういう仕事をいい意味で遊びながらサービスを提供できたら良いかなっていうところですね。」
-吉田さんがこれまでのご経験の中で一番、これはやってしまったな、というようなことはありますか?今となっては良い経験だったなということとか。
「前にお世話になってた所で、生のマグロをね。丹後の間人(たいざ)漁港の漁師さんからマグロが釣れたから買いませんか?って10何キロだったかな?結構いいサイズだったんです、それが2匹。で、2匹合わせて結構いい値段したんですけど、それ勝手に買ってね。後でめっちゃ怒られた(笑)」
-それは確認をとって買わなければいけなかったと
「さすがに額の大きいものは確認せなあかんかった時期やったから、『いや…お前…これは…あかんやろ…こんな…』って(笑)」
-(笑)そのマグロ、吉田さんはもう「いいマグロですね~」って感じで買われたんですか
「そうそう。でもね俺のことを怒った先輩も『マグロ1匹まるごと解体したことなかったんやけど、おもろいやん』って(笑)いい経験になったんやろね。でね、マグロの生モノって解体してから1週間以上は冷蔵庫でもった。」
-普通はどれくらいなんですか?
「まあ鯛とかの普通の身だったら2日、天然でも3日くらいだけど、マグロはめちゃめちゃ日持ちする。それがその時にすごく経験になったかな。」
-今はそういったお魚の仕入れはどうゆう風におこなわれていますか
「丹後の間人っていう、間人蟹が有名な所なんですけどそこから仕入れています生魚は。あとは中央市場から仕入れてる。僕の地元のお世話になった魚屋さんがあるんですけど、そこのオヤッサンにお願いして。」
-それはメニューによって決められている形ですか。それともその時の魚によって変わったり
「まあセットでもらうんで魚は。だからその時に捕れた魚によってある程度、何種類かは入れてねっていう約束で。全部同じ種類じゃあ具合悪いんで。それを活け締めして送ってもらう。」
-なるほど。ちなみにこのお店をオープンして何年になりますか
「お店は2015年の12月にオープンですね。」
-ということは今年で6年ということですね。実際に6年前にスタートされてから今までお店をされてきて、スタート時と今とで変わったことはありますか。
「何も分からずに走っていたのが、道がちょっと見えて走っている感じかな。その道がまだどこまで続いているのかは分からないような道って感じ。簡単に言うとそんな感じかな。
6年前はもう何もかもよく分かってない感じ。でも地元のお客さんがよく来てくれてたんで。言うたら増田さんや松林さんもそうだし、どんなお店かなって感じで色んな商売人の人がよく来てくれてた。毎日ひっきりなしにバタバタしてたんで、もう余裕を持って笑顔を出すなんて出来てなかったと思う。」
-とにかく手探りというか、もがきながら進むという感じですか?
「そうそう。人手も少ないし、そもそもお店の奥のスペースを使うなんて思ってなかったから。」
-ああ、じゃあ最初はここはそういうスペースじゃなかったということですね。
「いや、そういうスペースではあったんやけど、基本は団体さん用くらいの感覚で用意してたんやけど、どんどんお客さんが来てくれるから、もう奥のスペースも使っちゃうじゃないですか。
それから、お客さんに『お昼のランチやって欲しい』とも言われたから、ランチもやってたら結構お昼も来てくれるようになって。」
-じゃあお客さんの声からランチがスタートするようになったんですね。
「そうなんですよ。お昼に仕込みをしてたら『あれ?ランチやってないの?』っておばちゃんがやってきて。
『ごめんなさい、やってないんですよ~』、『なんでやらへんの?』、『仕込みがあるんで』って言うたら『やったら良いのに~1種類だけでも来るのに』って言うから『ほならやりますわー』言うて(笑)」
-そんな経緯が(笑)
「で、最初はここ座敷やったんです。そしたらおばちゃんから『足を伸ばせへんのかなわんわ~』って声があったから『じゃあテーブル変えますわ』って。」
-じゃあお客さんの声からちょっとずつ
「そう、ちょっとずつ肉付けをしていって、やっと最近お店に来てくれるお客さんってこんなお客さんなんやなっていうのも分かってきたし。」
-吉田さんが今までの人生の中で影響を受けた方とか、どういった人に良いなと思う共通点があったりしますか?何かお店を出すきっかけになったのも人だったりする場合とかあるじゃないですか。
「きっかけ。出会ってきた人に恵まれてたかな、と思いますね。前向きな人が多かったから。結構どんな職場でも環境でも面倒くさがったり、嫌だとかすぐ口に出す人はいっぱいいるけど、あんまりそういう人は僕の上にはいなかったかな。言うたらお客さんのために前の日にどれだけ時間がかかってもいいからちゃんと仕込み準備して帰ろうとか、やっぱりちゃんとした人が多かった。
そういう人達に合った時に、お前変わったなって言われへんように、やっぱりちゃんとやっていかないとって。多分その人達もどこかで頑張ってるんだろうなって、まあそういう先輩に巡り合ってそういう先輩に教えてもらったから今があるのかなとは思いますね。」
-吉田さんも結構前向きなことを従業員の方とかにお話されるんですか
「そうですね。うちはアルバイトさんやパートさんが多いんですけど、できるだけ前向きにやれることはやっています。」
-ありがとうございます。ここまで色々とお答えいただいたのですが、このお店、そして吉田さんがどういったものを目指されているのか。吉田さん自身このお店を含めどういう風な人生を目指されているのかお聞き出来ればと思います。
「このお店は、よく言っているのが特別なお店というよりも『地元のご飯を食べるところ』、みたいな感覚で来てもらう形でスタートしたので、店名に『お台所』って付けてて。例えば夫婦が『ご飯食べに行こうか』ってなった時に『もう近くのrojiでええやん』って、来てくれる感じがいいなっていうので始めたので、それがずっと続けばいいなって。体が動く限り。それでご飯食べれて子供が巣立てばそれでいいかなって(笑)ほんと単純。そんなもんです。そりゃお金は欲しいけどね(笑)毎日ちゃんと生活させてくれたらって。
まずはそこから。6年目なんでまだまだそこまで至ってない。コロナ禍になったから余計にだし、またゼロからです。ほんとに一気にお客さんが減ったから本当にゼロからかな、と思ってます。また肉付けしていかないと。全部溶けていったんでね。」
-ありがとうございます。吉田さんが大事にされていることってありますか
「大事にしていること?う~ん…まあさっきも言ったけど前向きに。お客さんは絶対にいるからお客さんのことを見ながら、必ずお客さんのとこに自分の仕事してるものはいくから。飲食だから仕込みしたらその仕込んだ仕上がりは絶対お客さんのとこにいくから。お客さん見ながらやることが大事かなって。それが一番かな。」
-ありがとうございます。ちょっとお仕事の話とは別でおうかがいできればと思いますが、お休みの日とかは何をされていますか?休日でもあまりお時間は無いですか?
「休みの日ね。最近は仲間内で山に登ったり、歩いたりとか体を動かすようになったなぁ」
-それはコロナの影響とか関係なく、その前からずっとですか?
「いや、本当に最近。休業になってから休業してる間とか一人で歩きに行ったりとか。もちろんマスクして帽子被ってサングラスして(笑)まあ20kmくらい歩いたりとか。」
-そんなに歩かれてるんですか
「そう、だからご近所さんからしたら、朝の9時くらいに家出て夕方4時くらいに帰ってくるから『ああ、仕事に行ってはったんやなって』思ってはるやろなと(笑)」
-(笑)ちなみに山とかはどこの山に登られてるんですか
「いやいや本当に近所の山で。2時間くらいで歩いて帰ってこれるとこ。歩くなら1号線の 一蘭あるでしょ?枚方の」
-え??そこまで歩くんですか!?すごい距離を歩かれてるんですね。じゃあ最近の趣味はもうウォーキングですね。
「まあそう出来る限りは体動かすのはやりたいなって。そのあと風呂入ってスッキリして家でビール飲んだらもうね。」
-最高ですね(笑)
「そうそう、そんな感じやね。今コロナで色んなところにも行けへんしね。」
-毎日これが欠かせないルーティーンみたいなものってありますか?コロナ期間中にそれこそ散歩を始めた方も結構いらっしゃるみたいで
「なにしてんねやろ、毎日やること。洗濯?(笑)」
-洗濯はご自身で全部されてるんですか?ご家族の分とかも
「やれる時はほぼ毎日やってる。嫁さんも他でお店、美容院やってるから、できることは手伝おうかなって。毎日となるとちょっと難しいけど。」
-じゃあもう最近は歩いたり山登りしたり。ちなみにその前はスポーツはしてたんですか?
「全くしてないな。少年野球と少林寺やってたくらい。」
-少林寺されてたんですか。もうされないんですか?
「したいとは思うけど日が合わへんからね。近くに少林寺あるんやけど月・木やから、定休日の月曜日はいいとして、結局木曜も行かなあかんってことになるし、それは無理やなって。子供と一緒に行きたかったんやけどね。
まあでも歩くのが一番楽しいかな。一人で釣りをしているのと同じようなレベル違うかな。俺のイメージやけど。何にも邪魔されずに一人でできるという部分で。」
-お仲間さんとは歩かれないんですか
「山登りは一緒に登るけど、その時は延々と喋っていられる。お酒もなく山を登りながら、ああやな、こうやなとか言いながら。自然の中やしね。」
-ちなみに先程、枚方の方まで歩いているとおっしゃられてましたが、そこまでも一人で歩かれてたんですか
「そう。どこまで行けるかなぁって(笑)枚方っていうか男山のちょっと手前くらいかな。八幡の方。」
-結構な距離ありますよね
「でもちょっとあれはもう1回行きたいなって思ってて。誰にも迷惑かけないように。結構いてはるけどね、同じ様に歩いてはる人。そんな感じで、体を動かすのが最近の自分のやりたいことになってますね。後はほとんどお店に仕込みにきてるんで休みの日は。掃除とかもあるしね。営業中はできない大きな掃除とかしとかないとあかんし。」
-ありがとうございます。これからというか、今吉田さんがこの仕事を選んでて一番『楽しいな』とか『やっててよかったな』って思う瞬間ってどんなことですか?
「それはもう、間違いなく『ありがとう』って言われた時、『美味しかった』って言われた時、『また来ます』って言われた時。それ言われたらもう、疲れも吹っ飛ぶかなって。それだけのためにやってるようなもんで。多分、飲食をやってる人はみんなそうかも。」
-お店は細く長く続くようにと始められたとおっしゃられていましたが、もちろん最初はお手伝いから始まったと思うんですけど、ご自分で飲食のお店をされるところまで来れたのは、やっぱりそういうお客様からの一言の積み重ねだったんですね。
「やっぱりサービス業やからお客さんが喜んでくれて、『あ~、やってて良かったな。明日も頑張ろう』みたいな、そういうところですね。本当に美味しいって言ってもらえることが大事やし、ありがとうって言ってもらえたら頑張った甲斐があったなと。それを目指して毎日頑張っております。」
2021年7月15日(木)
取材・撮影 :藤川 拓哉
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